カロリーの定義:なぜ NRC 2006 の式を使い、幅で示すのか
わんぱくキッチンのカロリーは犬の代謝エネルギー(ME)ひとつに統一しています。NRC 2006 の食物繊維総量版の式を採る理由と、目標カロリーを幅で示す理由を説明します。
技術ノートの入口で挙げた「基準系の一貫性」は、まずカロリーの定義から始まります。
アプリの中のカロリーは一つだけ
わんぱくキッチンの画面に出るレシピのカロリーは、すべて 犬の代謝エネルギー(ME) という一つの定義で計算しています。給与量の計算にも、栄養素の過不足の判定にも、PFC(たんぱく質・脂質・炭水化物)の割合にも、同じ値を使います。

なぜ一つにするのか
栄養基準値は多くの場合「1000 kcal ME あたり何 g」という カロリーあたりの濃度 で定められています。この「ME」は、基準を作った側が特定の計算方法で定義した量です。レシピ側の ME を別の方法で計算して基準値と比べると、見かけは同じ kcal でも中身の違う量どうしを比べることになります。
そこでわんぱくキッチンは、基準値の出典が想定しているエネルギーの計算方法で、レシピの ME を計算する ことを原則にしています。用途ごとに別のカロリーを使い分けることはしません。
成分表のエネルギー値を使わない理由
日本食品標準成分表にもエネルギー値は載っています。ただしこれは人間の食品表示のためのエネルギーで、犬の代謝エネルギーではありません。犬と人では消化の仕方も、基準値が前提にしているエネルギーの定義も違います。そのため、成分表のエネルギー値は判定にも給与量の計算にも使いません。成分表からは水分・たんぱく質・脂質・炭水化物・食物繊維総量といった 成分の量 だけを受け取り、エネルギーはアプリ側で計算します。
NRC 2006(食物繊維総量版)を採る理由
レシピの ME は、NRC (2006) Nutrient Requirements of Dogs and Cats に示された、食物繊維総量(TDF)を使う予測式 で計算しています。考え方の骨格は次のとおりです。
- たんぱく質・脂質・炭水化物の量から、食事の総エネルギーを見積もる
- 乾物中の食物繊維が多いほど消化される割合が下がる、として消化率を見積もる
- たんぱく質のうち尿として失われる分のエネルギーを差し引く
この式を選んだ理由は 3 つあります。
- 検証成績:複数の ME 予測式を給餌試験の実測と照合した検証で、NRC 2006 の食物繊維総量版が最もよく一致し、系統的なずれ(バイアス)と、値の大小に応じて広がるずれ(比例誤差)が最も小さいと報告されています。
- 基準系との一致:栄養基準の一次出典にしている FEDIAF が、このエネルギー式を自らのガイドラインに採用しています。式を揃えることで、レシピの栄養素量・レシピの ME・基準値の 3 つが同じ基準系に乗ります(栄養基準)。
- 入力の一致:日本の成分表が収載しているのは「食物繊維総量」です。粗繊維を入力にする版を使うと、食物繊維総量から粗繊維を推定する誤差を新たに持ち込みます。成分表の収載体系と、検証で最良とされた式の入力が一致しているのは、手作りごはんの計算にとって有利な条件です。
修正アトウォーター式を一次にしない理由
ペットフード業界では、たんぱく質・脂質・炭水化物に固定の換算係数を掛ける 修正アトウォーター式 が広く使われています。この式は市販の加工フードを想定して消化率を低めに見込んだもので、上で触れた検証では一致度が最も悪く、系統誤差と比例誤差の両方が確認されています。傾向としては、消化しにくいフードを高く、消化しやすいフードを低く見積もります。
生の肉や魚、ごはんや野菜を中心にした手作りごはんは消化しやすい側にあたるため、修正アトウォーター式ではカロリーを低く見積もりやすくなります。カロリーは栄養素濃度の分母なので、カロリーを低く見積もると、栄養素は実際より「足りている」ように見えます。わんぱくキッチンがこの式を一次にしないのは、この方向の偏りを避けるためです。
カロリーの計算に関する性質
画面を読むうえで知っておくと役に立つ性質がいくつかあります。
- 水を足してもカロリーは変わりません。 加えた水は乾物を増やさないため、レシピ全体の ME は変わりません。1 g あたりのカロリーが下がるだけです。
- 食材ごとのカロリーは単純な足し算になりません。 消化率はレシピ全体の食物繊維の割合で決まるため、同じ食材でも一緒に入れる食材によって寄与が変わります。食材別のカロリーを示すときは「このレシピの中での寄与」として示します。
- PFC の割合は ME をそのまま分解しています。 別の換算係数を使っていないので、円グラフの合計は必ず 100% になり、カロリー表示とも食い違いません。
- 極端な組成では式の確からしさが下がります。 予測式は総合栄養食に近い組成で作られています。肉だけに近いレシピや、繊維が極端に多いレシピでは、推定の当てはまりが悪くなる可能性があります。
目標カロリーは「点+幅」で示します
ワンちゃんの 1 日の目標カロリーは、安静時のエネルギー要求量(体重の 0.75 乗に比例する標準的な式)に、ライフステージと去勢・避妊の有無に応じた係数を掛けて求めています。体型(BCS)が理想から外れているときは、現在の体重ではなく推定理想体重に寄せた体重で計算します。
ただし、この係数は 集団の平均 です。同じ体重・同じライフステージでも、実際に必要なカロリーは個体ごとに大きくばらつきます。たとえば日本の室内飼育の小型犬では、一般的な係数よりかなり低い実測が報告されています(阿久津・大辻, ペット栄養学会誌, 2012)。そこでわんぱくキッチンは、目標カロリーを一つの数字として断定せず、点推定と、その前後の目安の幅 を一緒に示します。栄養素に推定範囲を添えるのと同じ方針です。
給与量(グラム)の計算には点推定を使います。幅は「この程度はずれていてもおかしくない」ことを示すための表示で、下流の計算を分岐させるものではありません。
運動量を入力しない理由
運動量の自己申告は、飼い主さんごとに尺度が違い、再現性がありません。再現性のない入力で係数を細かく動かすと、誤差が増えるだけで精度は上がりません。係数を固定したうえで幅を明示する方が誠実だと考えています。
量を合わせるのは飼い主さんです
わんぱくキッチンは給与量を自動で書き換えません。実際の調整は、体重と体型の変化を見ながら飼い主さんが行う、という役割分担にしています。
- 2〜4 週間ごとに体重を記録する
- 体重が増え続けているなら量を減らし、減り続けているなら増やす
- 体型(BCS)を定期的に見直し、変わったらプロフィールを更新する
体重や BCS を記録すると、目標カロリーは最新の値で計算し直されます。体重の変化から何 kcal 動かせばよいかを自動で決める機能は持っていません。それには実際に食べた量の継続的な記録が必要になり、その前提を多くのご家庭に求めるのは現実的でないからです。BCS はできるだけ同じ人が同じ見方で評価すると、目標カロリーが理由なく上下しにくくなります。